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鳶のかねたたき

カーンカーンと鐘をたたきながら、白い街道を毎日善光寺参りの人が通っていきます。
澄んだ空に善光寺和讃と鐘の音がひびいて、ほんとうによいお日和でありました。
鳶の藤三郎は大きく羽をひろげ、空を舞っておりましたピーヒョロロ、ピーヒョロロ藤三郎はこううたいながら、ちょいちょい下の街道をながめているうちに、自分も善光寺まいりがしたくなりました。
「おらも空でピーヒョロロ、ピーヒョロロうたうばっかじゃつまらん、ひとつかねたたきの仲間にならず。」
そこでどこやらのうちのものほしから善光寺りの白い着物をさらってきて笠をかぶりきゃはんわつけ、さてこしにかねをさすと立派な善光寺まいりの姿になりました。
早速街道をカーンカーンとかねをたたいていくと、あちこちの国からきた善光寺まいりひとがたまげて、
「やあ大しものだ、さすがは、善光寺さんのおひざ元でねえか、鳶までおまいりに行きよるわ。」と大さわぎです。
三郎は得意になってわさんをとなえながらかねをたたいて行くうちに、くたびれました。
空を舞うのは得意だが、脚はよわい鳶の事です。
ひょろひょろ、ひょろひょろ、妙なかっこうでようよう善光寺にたどりつきました。
「偉いこっちゃ鳶のみで。」
「さあこっちにおよりなんし。」
藤三郎は大かんげいされました。それから大勢の巡礼たちといっしょにお経をよみ和さんを唱え、そのうえ胸のふくろに米三合いれてもらった藤三郎はもう思い残すことはないと思いました。
すっかり元気を取りもどし山門のところまで出てくると、さあたいへん、鳩たちが鳶を見つけてさわぎ出したのです。
「ポ、ポ、ポ、敵の鳶がきたぞ。」
たちまち善光寺中の鳩が集まってきてつつきかかります。
何をと肩をいからし、クワッと口を開けておどかしましたが、何しろ足のふみ場もない程の鳩の群にはかないません。
白い着物もかさも投げ捨ててほうほうのていで空へ舞い上がりました。
「善光寺参りはもうこりた。」
住み慣れた空へもどるとやっと藤三郎はほっとして、胸のふくろから米を取り出してかみました。
それから子供たちは鳶をみると、
 鳶、鳶、藤三郎、  鳶は信濃の鉦たたき、  一日たたいて米三合 
と、歌いはやすようになりました。
しかし、こんなに歌いはやされても、鳶の藤三郎は、時々脚半をつけて、鉦をたたきながら、白い街道をまた歩きたくなるのです。

門前の半顔地蔵き

昔,一人の男が夕暮れの門前を歩いていた。
見ると近くの小川で、うら若い女が小豆を洗っていた。
冬の夕闇、冷たい水。
可哀相と思ったのか男は、「むすめさん。」と声をかけた。
振りむいた女の顔を見て、男は腰を抜かした。
なんと女には目鼻も口もなかったのだ。
その後、幾人も同じ目に会い、人々は『小豆洗いのノッペラボー』と恐れた。
そんなある日、ひとりの侍が寺の帰り道、小豆洗いに出くわした。
侍は妖怪の正体を見破った。着物の裾にしっぽが見えたのだ。
「悪キツネめ、成敗いたす。」侍は刀で切りつけた。キツネは身をかわしたが、侍の腕は 勝っていた。
キツネは追いつめられ、手を合わせて震えていた。
しかし、刀は容赦なく振りおろされた。!静まりかえった闇….。
翌朝人々が見たのは、顔が半分欠けた地蔵様の姿だった。
まるで刀で切り落とされたような半顔。だが、いつもと変わらなぬ穏やかな表情だった。
それ以来、小豆洗いは現れなくなったという。
キツネの身代わりになったお地蔵様、
今でも広徳寺の門前に半顔のお姿で立っておいでです。

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