神代桜にまつわるお話

その1
むかし、日本は60余の国に分かれていました。神様は、各国に1本ずつ桜の苗を与え、これを育てるように命令されました。全国各地の桜が次々に枯れていってしまう中で、ただ1本芋井の桜だけはかろうじて農民の力によって生きつづけていました。天照大神の命令で桜の様子を見に全国を旅していたスサノオノミコトが、この芋井にたちよりました。ここは傾斜地で、人々は土地にしがみつくようにして生きていました。水のない土地なので、桜の水くれも大変な苦労をしていましたが、桜は人々の力によって美しい花をつけるまでに成長していたのです。スサノオノミコトは、一生懸命に働く人々の姿をご覧になり、大変感心され、諏訪の湖よりここに泉を移されて最後までがんばった芋井の人たちの手助けをしようとなさいました。桜の根元に泉がふき出し、諏訪の湖の水が泉となってこんこんとわき出し大地をうるおしました。桜を育てたこの地の人々は神様のおぼしめしにかない、飯綱の神に仕えることをゆるされ、その後も幸福に暮らしました。いもいとは、神に仕える人という意味があります。芋井の地名もこのことからつけられたといいます。それから、神様からいただいた一番はじめの桜ということから、この桜を素桜(もとはな)の神代桜といって大切にしています。

神代桜 素桜神社

その2
むかしむかし、スサノオノミコトが信濃を旅していたときのことです。長い旅だったので、すっかり疲れて、やっとのことで山あいの村にたどりつきました。のどがからからにかわいて水が飲みたくなりましたが、どこにも見当たりません。そこで畑仕事に精出す村人に、「水が飲みたいのだが、もらえないだろうか。」とたずねました。すると村人は、「つた」に囲まれた小さな泉にミコトを案内してくれました。その水のおいしかったこと。ミコトは旅の疲れも一度に取れてしまいました。お礼をしようとしましたが、なにもありません。どうしたものかと考えあぐね空を見上げると、そこには真夏の太陽がさんさんとふりそそいでいました。ミコトはここに日陰をつくろうと、手にしていた桜の若木のつえを泉のそばにつきさし、丈夫に育つようにと泉の周りのつたをからみつかせました。つたから水をえた桜は、ぐんぐん大きくなり、素桜(もとはな)神社の庭いっぱいに広がり、花のころには、人々を楽しませ、暑い夏には大きな日陰をつくり、人々の農作業の疲れをいやしました。そして、まきつけられたつたも桜とともに泉を守っていました。ところが、桜にからみついたつたを見た泉平の老人が、つたを切れば桜がもっときれいに咲くだろうと、つたのつるをことごとく切ってしまいました。するとどうでしょう。桜の木がかれはじめました。そして、つたを切った老人は目が見えなくなり、そのつたを売りに行った人は、馬が急にあばれだし、けられて死んでしまいました。こわくなった村人は、かれはじめた桜の枝を切り、「おはらい」をして神のいかりをしずめました。桜はまた勢いをとりもどし、美しい花を咲かせるようになりました。

「いもいの民話」より